<No.29>AIPコーティングの弱点「ドロップレット」を除去する<前編>
前回はAIP法の歴史と当社の膜開発について説明致しました。今回はそのAIPの弱点である「ドロップレット」をご説明したいと思います。
AIPコーティング装置
AIPとは図1に示す通り、Arc Ion Platingの略でターゲットにアーク放電を発生させ、その際に生じる金属イオンを基板に引き寄せて被膜を形成する表面処理手法です。

AIP法の最大の弱点「ドロップレット」とは
AIP法とはカソード内に搭載されたターゲットと呼ばれる金属材料表面に真空アーク放電を発生させることにより、ターゲット表面を局所的に加熱し、そのスポット部から原料がイオン化・蒸気化し、それを基板に負のバイアス電圧を印可し、引き込むことによって皮膜を形成させる手法です。
図2に示すように、ターゲットから飛び出した原料はイオン化されたものが発生すると同時に、イオン化されずに液滴上の塊になって飛び出す「ドロップレット」と呼ばれる溶融粒子も発生する為、そのドロップレットが基材に付着し、膜化する事によって、膜の表面には微小な凹凸が発生します。これが要因で切削加工等における切削抵抗を起こし、凝着摩耗をもたらします。
(ドロップレットのサイズはコーティングプロセスによって様々ですが、下の図のように大きなものでは直径が5μm、小さなものでは0.5μm程度のものがあり、全体の90%は直径1μm以下と言われています。)
AIPコーティング装置の開発課題でもあるこのドロップレット発生を抑制する為、カソード周辺の磁場成分分布を最適化し、アークスポットの移動速度を加速させる事で、ドロップレットを小さくする技術も開発されてはいますが、発生をゼロにする事は現在の技術では実現されていません。

図3と表1にCrAiSiN膜表面の元素分析箇所とその結果を示します。


上の図の中心部に約3μmのドロップレットが存在し、そのドロップレットの頂点(b)の元素分析を行いました。またそのドロップレットの周辺の平坦部の膜表面(c)(d)(e)の元素分析も行いました。比較用に成膜に使用する原料であるCrAlSiターゲットの成分分析表(a)の組成を示します。
ドロップレット(b)と膜表面(c)(d)(e)では、構成される元素にほぼ違いはないものの、 CrAlSiターゲット(a)とドロップレット(b)に構成される元素比率に違いある為、ドロップレットの表面(表層部)はCrAlSiNが膜化している事がわかります。
したがって、ドロップレットの表面は硬く、中心部が柔らかい事が想像できます。その為、切削加工の様に強い衝撃と摩擦が繰り返される膜と被削材との間で、ドロップレットが被削材を削り、またその摩擦や衝撃に耐えきれなかった場合には根こそぎドロップレットが基材から脱落し、基材があらわになることも容易に想像ができます。それによって溶着が始まり、拡散する事と考えます。
次号において、そのAIPも最大の弱点である「ドロップレット」を除去する自社開発複合膜「OS-ZZ」について解説いたします。









